カサンドラ症候群当事者の自助グループ「フルリール」とともに、カサンドラ症候群の啓発を目的とした動画制作に取り組みました。(個人ではなく、チームでの制作です。)本記事では、本プロジェクトの背景や目的、制作プロセス、メディアへのアプローチ、そして制作を通して得た学びについてご紹介します。
制作の経緯
本取り組みのきっかけは、プロボノ(自身のスキルを活かしたボランティア)人材と、プロボノを受け入れたい団体をマッチングし、限られた期間の中で成果を出すことを目的としたプロジェクトへの参加でした。
当時、私は別チームにジョインし、こども支援団体の広報用動画制作を担当していました。一方で、同プロジェクトにはカサンドラ症候群当事者の自助グループ「フルリール」も参加していました。
プロジェクト終了後、「もっとプロボノとして活動を続けていきたい」という思いから事務局に相談したところ、新たにフルリールを紹介していただきました。フルリールでは、団体の活動やカサンドラ症候群そのものについて、より多くの人に知ってもらうために広報を強化していきたいという課題を抱えており、その手段として啓発動画の制作を希望されていました。
こうして、団体代表に加え、当初フルリールのチームとしてプロジェクトに参加していたプロボノメンバー3名と私の計4名で、新たな制作チームを結成し、動画制作に取り組むことになりました。
制作の目的・プロジェクト概要
制作の背景
ヒアリングや情報収集を進める中で、カサンドラ症候群を取り巻く状況には、次のような課題があることが見えてきました。
- 適切な支援を受けられず、孤立している当事者が多い
- 自身がカサンドラ症候群であることに気づいていない当事者が多い
- 苦しさを抱えながらも、一歩踏み出せずに悩んでいる当事者が多い
その背景には、
- 発達障害やカサンドラ症候群に関する社会的理解が十分に進んでいないこと
- パートナーが対外的には「問題がない」ように見えるケースが多いこと
- カサンドラ症候群が医療における正式な診断名ではなく、公的支援の対象になりにくいこと
といった構造的な要因がありました。
動画で目指したこと
これらの課題を踏まえ、本動画では次の状態を目指すことを共通認識としました。
- 社会全体で、発達障害やカサンドラ症候群に関する基礎的な知識が浸透している
- 当事者に接した人が、「もしかしたらカサンドラ症候群かもしれない」と可能性に気づける
- 当事者に対して、否定や押し付けではなく、寄り添った関わり方ができる
- 支援を必要とする当事者に対して、セルフヘルプグループという選択肢を紹介できる
単なる知識提供にとどまらず、「気づく」「つなぐ」ための動画であることを重視しました。
制作プロセス
リサーチ・企画
制作にあたっては、まずカサンドラ症候群そのものへの理解と、当事者を取り巻く状況への理解を深めることを重視。当事者や公的機関の職員へのヒアリングを行い、悩みの特徴や、支援につながりにくい構造について整理していきました。
動画の構成としては、
- カサンドラ症候群特有の悩みの特徴を描くこと
- ある人物が第三者からカサンドラ症候群の可能性を指摘され、回復に向かっていくまでのストーリーを再現すること
を軸に、リアルな当事者像を提示することを目指しました。これにより、視聴者が実際に当事者と接した際に、カサンドラ症候群の可能性に気づきやすくなることを狙いました。
また、ストーリーの中で、当事者への接し方やセルフヘルプグループの役割についても自然に理解してもらえる構成としました。
チームで担った制作プロセス
私は主に、企画設計、シナリオ・絵コンテの作成、撮影プランの設計、撮影当日のディレクションおよび撮影、編集を担当しました。
企画段階では、メンバーとのディスカッションを重ね、多くのフィードバックを受けながら内容をブラッシュアップしていきました。特に、当事者である団体代表に確認し、言語化し、議論するというプロセスを何度も繰り返しながら、表現が適切かどうかを検討しました。
撮影当日は、演劇経験のあるメンバーが主演を務め、他のメンバーも友人役などで出演しました。照明や進行のサポートも含め、それぞれが役割を担い、チーム一丸となって制作に取り組みました。
メディアアプローチ
完成した動画の公開の際は、約20媒体に向けてプレスリリースを送付しました。その結果、ローカルメディアに取り上げていただくことができました。
アプローチにおいて意識したポイントは以下の通りです。
- 団体設立10周年という節目
- 発達障害啓発週間という社会的文脈
この2点にタイミングを合わせて情報発信を行いました。
また、
- 各メディアの特性
- 過去の記事傾向
を事前にリサーチ・分析し、メディアごとに切り口を調整したプレスリリースを作成しました。
社会課題と向き合う広報において大切にしたこと
社会課題に向き合ううえで、当事者への理解は欠かせないものだと考えています。一方で、当事者の苦しみは当事者にしかわからない。その前提を忘れず、わかったつもりにならないことを大切にしながら、理解しようと努力を重ね続ける姿勢が何より重要だと感じています。
また、社会課題の解決には、課題そのものを社会に広く認知してもらい、理解を広げていくことが必要です。そのためには、コンテンツを「つくること」だけでなく、いかに社会に届けるかという視点が欠かせません。
今回はメディア露出という手段を選びましたが、これはあくまで一つの方法に過ぎません。状況や対象に応じてアプローチを変えながら、粘り強く発信を続けていくことが大切だと考えています。
今後も、カサンドラ症候群への理解が社会に少しずつでも広がっていくよう、プロボノという立場から関わり続けていきたいと思います。

